2022年11月29日(火) あぶなく引退するところでした

上滑りしてゆく反差別。消費と忘却のファスト言説。実践とのカイリ。——トランスマーチのブース出展が終わったら、マサキチトセを辞めようと思っていました。
瀬戸マサキ 2022.11.29
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こんにちは。

まだ先日の第二回東京トランスマーチの疲れが残っている気がします。

記念すべき第一通目のタイトルに「引退」の文字が入ってるだけでも depressing なのに、さっそく一行目から「疲れ」なんて言葉を使ってしまって、あなたを嫌な気持ちにさせてしまうのではないかと少し不安ではあります。まあでも最後には明るく筆を置きたいと思ってるので、ほんの少しお付き合いください

トランスマーチでは、本や ZINE の受託販売をしてきました。合計22作品、部数にして256部。予想をはるかに超える点数でした。キャリーバッグを含めるとおそらく30kg以上あったと思います。企画に賛同して委託してくれたみんなの思いの重さだと思えばなんてことない、と言いたいところですが、やはりとんでもなく重かったです。

そのヘビー級のキャリーバッグを引きずるようにして、館林から新宿まで電車を乗り継ぎ、会場に行きました。

画像説明:コンクリート。テントの足の一つにトランスフラッグカラー(白、青、ピンク)で作った手作り看板が付いている。テントの中に長机があり、トランスフラッグがさがっている。机の上にはさまざまな作品と値札が並んでいる。奥に数人の人が見える(顔は見えない)。

画像説明:コンクリート。テントの足の一つにトランスフラッグカラー(白、青、ピンク)で作った手作り看板が付いている。テントの中に長机があり、トランスフラッグがさがっている。机の上にはさまざまな作品と値札が並んでいる。奥に数人の人が見える(顔は見えない)。

参加者数は1000人を超えたらしく、僕のブースも大人気でした。

作品はどれも瞬く間に売り切れてゆき、午後の早い段階で全作品完売となりました。帰りの荷物がはるかに軽くなり、在庫返送の手間も完全に消失。作り手もたくさんブースに顔を出してくれたので、渡せる人には現金で売上を渡すことができました。なんて完璧な日でしょう。

また、作り手の半数以上が今回初めて ZINE 制作に挑んだそうです。初作品が見事完売したことを、今後の ZINE 制作のモチベーションにしてほしいなと思います。

嬉しいことはそれだけではなくて。

会場では数えきれないほどの再会があり、新しい出会いもあり、知り合いだけど初対面というケースもたくさんありました。差し入れのお菓子を持ってきてくれた人もたくさんいました。15年ぶりに会った人とは、「白髪が増えたね〜」という話で盛り上がりました。さながら、クィアの同窓会って感じでした。

特に、ブースを手伝ってくれた高島鈴さんとナナシマさんには心から感謝しています。食べ物を買ってきてくれた Kody にも。

画像説明:高島鈴さん、ナナシマさん、マサキの三人で、差し入れのお菓子を食べている様子(足元のみ)。テーブルの上にお菓子が並んでいる。

画像説明:高島鈴さん、ナナシマさん、マサキの三人で、差し入れのお菓子を食べている様子(足元のみ)。テーブルの上にお菓子が並んでいる。

実は僕、このイベントが終わったら「マサキチトセ」としての発信を終わりにしようと思っていました。今日はその理由と、思い直した経緯を話したいと思います。

***

9月末だか10月初旬だかに、仲良くしていたはずの男性若手研究者が、自身の論考で批判している差別的言辞を男性同士の出会い用の裏垢のプロフィールに書いていたことを知ってしまいました。それも、一年以上前、僕がまさにその言辞に傷ついているという話を彼にはしていたのに。

この事件があってから、僕は、あらゆる反差別の言説が信じられなくなってしまいました

(詳しくは https://min.togetter.com/vHYBjEQ にまとめてあります。)

さらに【ゲイ・バイ男性向けのマッチングアプリ『9monsters』で居住国を「Japan」に設定すると自動的に日章旗(日の丸)が名前のすぐそばに表示される】という仕様についてツイッターで問題提起した際、シスジェンダーのゲイ・バイ男性からの反応がとても薄かった、ということがありました。

ナショナリズムにクィア性が取り込まれることを批判的に取り上げた僕の過去の記事は、あんなにリツイートされていたのに。

これも、引退を考える直接的原因になりました

(詳しくは https://min.togetter.com/M4tXbLP へ)

ここで全貌を語ることはしませんが、簡潔に言えば、セックスや恋愛の文脈において人は、表で悪いことだと言ってるような事柄も容認してしまう——それどころか、自分自身もその行動をしてしまう、なんてことがあるのか、という驚きです。

あるいは、本当は悪いことだと思っていないことを、表でなぜかわざわざ批判しているという可能性もあります。わざわざそんなことをする目的は何なんでしょうか。業績や評判、原稿料などですか?

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