早稲田講演「"ということになっている"社会の息苦しさ」
早稲田大学演劇博物館が2019年7月15日に開催した「エンパクに虹をかける ─ LGBTQ入門」というイベント(会場:早稲田大学小野記念講堂)で、講演をしました。タイトルは「"ということになっている"社会の息苦しさ」。
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みなさん、こんにちは。
さっき見た時よりも少し人が増えていて嬉しいです。マサキチトセといいます。
セクシュアリティとジェンダーを中心に、ライター……がメインですね、最近は YouTube の配信などもしています。資料の方にホームページや YouTube のアドレスがあるので、執筆してきたものや出してきた動画だったりはそちらをご覧いただければ、どういったことをやっているのか知っていただけるかと思います。
えーと、そんなライターだの YouTube やらをやっているうちに、こういったイベントでお話をさせていただくことがだんだん増えてきて、ありがたいことなんですけども、LGBT とか、LGBTQ、ジェンダー、セクシュアリティ――ってことでよく聞くような話、というのとは、ちょっとズレる話をすることが私は多いんです。
例えば、言葉としては何度も耳にしたことのあるであろう〈ダイバーシティ〉。なんていうんでしょうね……本当にね、本当に「多様である私たち」のこと、という考え方としてダイバーシティという言葉を使う場合もあれば、ダイバーシティとは言っていてもね……と思う使われ方もある。先ほど大賀さんから、エレベーターがないところでダイバーシティといえるのか? というお話がありましたけど、団体であれ個人の活動家であれ、〈ダイバーシティ〉という言葉を使ってはいても、必ずしも本当に「多様な私たち」それぞれの個々の経験であったり思いであったりを反映しているとは限らないんじゃないかな、と私は思っているんですよ。
私はこれまでずっと、何年くらいだろう、5〜6年くらい? 色々書いたりしてきたんですけど、「『ダイバーシティ』で、正しい知識を得ましょう!」というのとは、だいぶ違う系統の話をするものなんです。
ベースにあるのが、聞いたことのある方もいらっしゃると思うんですけど「クィア理論」。批評理論といわれる学問の分野の中の、セクシュアリティ、ジェンダーなど性に関するものに特化したもの、これがベースになるんですね。
詳しい説明をする時間はないんですが、簡単に言ってしまうと、社会設計の観点ではなくて、どちらかというと社会分析の考え方。「社会はこうあるべきであって、こういう風に社会を作ってゆきましょう、こういう風にみんながやっていきましょう」とか「こういう仕組みを作り、こうして社会を変えてゆきましょう」という考え方というよりは、「今のこの問題の背景にあるのはこれなんじゃないの?」とか「このような歴史の流れがあるから今こうなっているんじゃないか?」とか、「かつてこうだと思われていたものは、その時はそれが主流の認識であったけれども、今、この視点を入れて考えると違う解釈ができるんじゃないか?」とか。「どうなってるのかしら?」という話を考える。のが、クィア理論です。
このあたりがさっき言った「ダイバーシティの正しい知識を得ましょう!」というのと違うところかなと思っています。
そんな私に「LGBTQ 入門」という仕事がきてしまったので、どんな話をしたらいいか、とても迷いはしたんです。
え、でも、入門だから、ちゃんと「"L" が、"○○" で〜〜」みたいな話をした方がよいのか……!? と(笑)。
(会場からくすりと笑い)
あの、一応軽くお話ししますけど、〈LGBTQ〉。L はレズビアンの略で、G はゲイですよね。B はバイセクシュアル、T はトランスジェンダーとか、トランスとか……トランスに関しては呼び方として、アイデンティティとして色々あるので必ずしも統一されませんが、最近は総称として、トランスと言うことが多いですね。
前の3つは性的指向に関すること。自分のアイデンティティの性別と、相手の……アイデンティティはわかりようがないけれど、自分のみている対象としての、恋愛だったり性の対象だったりするものの、まあ自分が判断する性別ですよね。本人のアイデンティティは知らないから。その組み合わせの問題。
T というのは、自分の性別とはなんであるかという、認識の問題。
そして Q というのは、先ほどこの子が(傍らのぬいぐるみを優しく指して)Q ちゃんと言ってましたけど、〈クィア〉という言葉ですね。クィアという言葉の説明は、ええと……説明は、とても長くなってしまうので……。
(会場から同意の笑い)
配布資料にある私のホームページに行っていただくと、『シノドス』というところに書いた文章があります。その中に私がクィアという言葉について、けっこう、ガッ! と説明したものが載っているので、もしよかったらそちらをご覧になってください。
では。入門、とはいっても、こういうイベントにいらっしゃる方ってたぶん、何らかの形ですでに若干「入門」されてる方が多いと思うんです。なので、今日はちょっと違う「入門」のしかたをしたいな、と思ったんですよ。どういうふうにやったら、その違う入門というか、一回「リセット」できるかな、って考えたんですけど……。
(会場へ)この中には、もちろんいろんな方がいらっしゃると思うんですが、これ挙手とかを求めるわけじゃないんですけどね、頭の中だけで考えていただければいいかなと思うんですけど、自分自身とか周囲の人の、経験の有無について考えていただきたいなと思って。