インクルーシブな英語教育を目指して
(最近やってることのご報告という感じなのですが、もっぱら ProgrezTribe のことばかりなので英語学習に全然興味がない人にはごめんなさい、という感じです……。)
10年以上前になります。イギリスの大学院に進学した友人に英語を教えてくれと頼まれ、オンラインで少しのあいだ教えていました。これが私の初めての「英語教育」経験でした。
その後すぐに YouTube で「クィア英会話」というチャンネルを立ち上げ、カーセラル・フェミニズム(監獄フェミニズムとも)について解説したり、「TERF」という言葉を紹介したり、白人男が話に割り込んできたらどう対抗するかの話をしたり、差別を語る文脈でよく出てくる単語を例文付きで解説したりと、いろいろなことをやりました。(このチャンネルは現在はポッドキャストに使ってます。よかったら聴いてね。)
当時なぜそんなふうに英語を教える動画を作る気になったかと言うと、冒頭で触れた友人に英語を教えるにあたって YouTube でたくさん英語教育系 YouTuber の動画を参考にしていた時に、とある YouTuber さん(今も有名)がライブ配信をやってたので入ってみたんです。そうしたらちょうど質問コーナーみたいなことをやっていて、私の耳に入ってきたのは
「そちらの国では、LGBTはどうですか」
という質問でした。
これをその YouTuber は「そちらの国では、える…じー、びー、えるじーびーてぃー? はどうですか?」と読み上げ、間髪入れず「すみませんちょっとわからないですね、LGBTってのが何なのかちょっと…」と答えていました。
私は驚いてしまいました。10年くらい前とはいえ、その人が住んでいたのは欧米圏です。英語圏でもあります。その国で2015年時点で「LGBT」という言葉を知らないなんて人は、よほどの高齢者とか若年者以外、ほぼいなかったはずです。つまりその人は、意図的にそういう話を避けていたとか、全く関心がなさすぎて記憶に残ってないとか、そういうことでしょう。
私はこの質問をした人がいまどんな気持ちでいるだろうかと心配になってしまいました。ライブ配信でコメントをするって、結構な熱量だと思うのです。もしかしたらその YouTuber の大ファンだったかもしれない。これは私の憶測だけれど、きっとその人は当事者だったんじゃないかな。
ProgrezTribe(英語・日本語で社会問題を語り合うコミュニティ)の発足後すぐにトピックに上がったことのひとつに「クィア当事者にとっての、ここではないどこかを知る入り口としての英語」がありました。私の周りには日本での生活が苦痛で海外に目を向けてる LGBTQ+ 当事者が多数います。若い頃は海外によく行っていたという人もいたりします。私よりも年上の活動家たちには、日本語では存在しない情報を得るために英語を勉強したという人もたくさんいます。
あのライブ配信でコメントをした人は、そんなふうに「ここではないどこか」を知りたくて、「そちらの国では、LGBTはどうですか」と聞いたのかもしれない。それなのに「俺はお前には関心ないよ」というメッセージを食らったわけです。しかも(もしかしたら)大好きな YouTuber から。
(今振り返って考えたら、その YouTuber が LGBT 当事者で、それを悟られないために知らないふりをした可能性もあるな、と思いました。)
それとほぼ同時期に、とある別の YouTuber が「bromance」という言葉の解説をしている動画を見ました。(TW: ホモフォビア)その人いわくブロマンスとは、「周りから見たらちょっと気持ち悪いと思うほどの男同士の親密な関係」と説明していました。
この野郎ども、って思いました。
ふざけんなよクソが、って思いました。
どいつもこいつもよぉ、って。
英語勉強しようと思った人が動画開いてこんなのを聞かされるなんて、酷すぎる。
そこで、自分が作ろうと思ったんです。「クィアなことや、自分のジェンダーに関すること、自分の考え方などを隠して英会話スクール通ってる人や、それが嫌で通えなくなってしまった人たち」が苦しまずに英語を学ぶことのできる場を。
結局その後たいして大きなチャンネルに育つこともなく、英語レッスン系動画に限れば再生回数1万回を超えるものは出ませんでした。それでも時々初めましての人に「マサキさんのこと YouTube の英語の動画で知ったんです」と言われることがあるので、やっぱやっといてよかったなと思います。
(実は当時のレッスン動画は完全に見れなくなっているわけではなく、アクセスさえすれば見れる「限定公開」というのにしてあります。この再生リストから観れますのでよかったら。)
YouTube で英語関連の動画を出さなくなっちゃってからしばらく英語教育について考えることはなかったのですが、2年ちょっと前に友人に「英語教えて」と言われたことをきっかけに、インクルーシブな英語教育にまた関心が向きました。この約2年間は生徒を増やしながら、マイノリティの生徒にとって何が学習の妨げになってしまうのかを示した論文を読み漁ったり、効果的に英語力を伸ばす方法を第二言語習得研究(Second Language Acquisition)の蓄積から学んだり、かなり真剣に取り組んできました。
これらのことが全て、現在の ProgrezTribe の活動につながっています。
交流・議論だけでなくしっかり学習したい人のためのオプションを最近新設したのですが、それには(個人レッスン、学習コーチングに加えて)動画コンテンツが見放題になるという特典があって、英語の文法や表現の解説だけでなく、社会問題に関する英文記事などを取り上げて読解していく動画を出していく予定です。
今どんどん動画を作っているのですが、慣れていないので時間配分が難しいです。昨日なんて、とあるクルド人ヘイトに関する英文記事を最初から最後まで丁寧に全部説明しようとしたら合計4時間半になってしまいました。30分ずつくらいに区切ってはいますが、学習者にとってあまり長い動画というのも良くないんだろうな、丁寧なら丁寧なほど良いというものでもないだろうな、と思って、反省しているところです。
ちなみに英文解説動画はこんな感じでやってみています↓